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2006年 01月 18日
縦と横──1
小学生か中学生かの頃,日本語横書きの文章に傍点をふる際に,上と下のどちらにふればいいのかよく解っていなかった.つまり,下にふるべきだと考えていた.
その理由は,当時は「何となく」だったが,その割に自信をもって主張していたのは,今から考えてみれば縦書きに線を付すときは傍点と同じ右側であるのに,横書きにしたとき下線と同じ下側に点をふらないのはおかしいと思っていたからだろう.縦書きのときに右側に線なり点なりを付すのは,右利きのひとが文字を書いて,その墨なりインクなりが乾かないうちに書き入れようとしたとき,かれがごく自然に行うことだろう.横書きのときに線や点を下側に付すのも,これと同様のはずなのだ.ルビでも同じことがいえる.西欧語だと傍点やルビの習慣がないけど,傍点なんてアンダーラインが破線になって間隔を大きく拡げたようなものなのだから,横書きでルビが文字の上側にくるのは特例として,傍点は線と同様に下側,となぜ考えなかったのだろう?
ああ,でもしかし.西欧語を書くとき,アンダーラインは下側だが,アクサンやウムラウトなどは上側か.いやいや,傍点とアクセントとでは機能が明らかに異なるから,比較は無意味.
西欧語の場合にラインが上ではなく下にくるのは,もちろん彼らの使う文字の高さが不揃いで,ベースラインだけが左右同じ高さでつづくのにあわせたものである.アルファベットを使うときは,上に飛び出す方が,下にベースラインを突き抜けるよりも頻度が高い.文字の形状からも,ラインは上ではなく下に来ることが説明できる(僕など,設定できるワープロソフトを使っているときや手書きのときは,アンダーラインではなくベースラインのところにわざわざ線を付してしまったりする).
日本語の文字の大きさは,かなと漢字では中心線が揃うのみだが,漢字同士だと高さはだいたい揃う.だから傍点やルビを上に付してもそれほど不自然には見えないのだが,手書きでそれをやろうとすると,手が汚れることになる.ここから考えられる可能性としては,日本語横書きの傍点やルビは,初めから手書きのことなど考えていない,というもの.つまり初めから活字の世界でのみ,行の進む方向にとって後ろ側に点やルビを付すという理屈によって,横書きのルビ・傍点が上に来る文化が始まったというもの.線だけ,西欧語に倣って下側に降りてきて,それがたまたま日本語の手書きを横書きで行う文化が広まったとき,都合が良かったというもの.
横書きの文字の上側に何かを付すという習慣は欧米にはあまりないようだから,今ワープロソフトに傍点やルビの機能がついているものが少ないのは,当然かも知れない.そもそもワープロソフトを規定する発想を支えるフレームの中に,文字の上側という発想がないのだろう.

by d_ama | 2006-01-18 00:18 | miscellaneous

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