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2005年 10月 14日
発表の後片づけ
発表の後片づけというのは,手続き上は以下の事柄を指します.
①席上で受けた質問の整理.ただし今回は今までに受けた質問や当然出てくるであろう(そして出てくることを期待して待ちかまえていた)質問が主で,最初の質問だけが僕の想定外でした.その質問に対応するには研究をもっと進めることが必要でしたので,後に別の形でお答えする必要があるものの,当面の直接的な課題ではありません.
②席上で受け損ねた質問の掘り起こし.手を上げてらっしゃったにもかかわらず時間の都合でお受けできなかった質問は,本来セッションが終わってから個人的にお受けするところですが,今回はそれが叶いませんでした.公開されていないメールアドレスを個人的に調べて,不躾ながら質問をお伺いする旨のメールをさっきお送りしたところです.
③学会誌に掲載する発表要旨の準備.これ(たった1200字です)を昨夜までに終え,指導教官の先生にお見せしてから先程学会側のプロセスに回したところです.雑誌『美学』223号(2005冬発行)に大会報告の一環として掲載されます.今年の冬には学会員に郵送され,また一般書店でもジュンク堂池袋店のような店であれば棚に置かれています(¥1000もしないはずです).棚になければ,美術出版社が窓口ですので,よければ注文なさって下さい.もっとも雑誌に掲載されたとはいえ著作権は僕にあるようなので,僕が気が向いたらHPに載せちゃうこともあるでしょう.
④これから同誌での掲載に向けて準備する論文は,③とは形式上別口の物です.実際上も,僕は学会発表ではあまり文献学的にならずに情報の整理とストーリーのまとめ方(オチのつけ方?)に重点を置きましたし,雑誌投稿ではむしろテキスト分析の緻密さを測りたい方針でいますので,同じ題材とストーリーながら,かなり異なった印象の原稿となりますし,別の原稿と考えて差し支えありません.

けれどこれらはもう,いいのです.手続き上の「後片づけ」は,後はそんなに苦しむことではありません.残るは④だけですし,時間さえ見つければすぐにやれることです.学会誌投稿が楽だというわけではありません.しかし新たな研究を開いていくのに比べれば,まだしも楽です.
そこで次の問題の一つ目は,次の研究をどうするかです.いくつかの材料を手がかりにして,考えるよりもまず手を付けることです.おそらくこれは,僕の研究の,ないし研究者としての,適性に適う方針でしょう.特に哲学の方に近い研究者の場合,ただ手を付けただけでは容易に迷ってしまうでしょう.きっと自分の関心と研究対象の各種論考に含まれた関心とのかみ合わせを試すことが必要でしょう.これに比べ,僕の研究は事実を確認することから始められるので,先の方法論が比較的有効です.しかしこう方法論を述べ立てられるからといって,先行きが楽かというと,かなり懸念されるところです.懸念を示された先生もいらっしゃいます.
問題の二つ目は気分的な「後片づけ」です.学会発表は建築も日本近代も専門としない聴衆向けに,できるだけ一般的な視点にまで至るような方向づけを施してお話しました.つまり,専門的な事柄から離れ,多少抽象的な事柄に結びつけて(できるだけ限定的に,専門的な事柄に即してですが)語ってしまったのです.そのようないわば大きな関心は,肥大化すればするほど自分が苦しくなっていきます.責任が持てなくなります.内心ではいくらでも持っててよいし,持たないわけにいきませんが,それを外に表すのはまた別のことです.高速道路を飛ばした後国道に降りたときに,スピード感覚の調整が必要なのと同様に,口頭発表を終えた研究者にも,感覚の調整が必要なのだと思いました(さっき自転車で車道を飛ばしてから歩道に乗り上げたときに,気付いたことです).もっと地道に,丹念に作業をする感覚を,取り戻すこと.これに並行して,全国から集った優れた研究者の前でライトを浴びて話せるという,浮揚感のようなものを冷まさねばならないという心理的な問題も,伴います.スポーツ選手に言われる「2年目のジンクス」のようなものを,(破ろうと躍起になることなく地道に)破らねばなりません.

by d_ama | 2005-10-14 20:57 | books / studies

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