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2013年 07月 02日
難しすぎるだろうか……?
國學院大学 2013前期「言語と思想054」 レポート課題のヒント

2013-07-02 天内大樹

レポート課題は基本的に自由なので,各人が各々の関心で講義の内容と関連させて論じれば結構です.テーマについて迷っている人にのみ向けてヒントを示しますので,すでにテーマを構想していた人は下記のテーマに束縛される必要は一切ありません.字数は3000-4000字……でしたよね? レポートの字数は通常,そのレポートが盛り込むべき内容の量と深さを示すものです.字数稼ぎの部分がない,練られた構成のレポートを期待します.

1.ある一つの物(身の回りにあったその製品,建築物,博物館などの展示品……)をとりあげ,その形状,機構,構成,素材,物質的特性,その物に刻み込まれた経緯,その物を取り巻いていたであろう歴史的社会的状況などを徹底的に調査した上で,整理して記述せよ.
 以前天内は『美術フォーラム21』という雑誌にジョルダン・サンドさんの論文を「ちゃぶ台論をひっくり返す──小寺家の食習慣」というタイトルで訳したことがあります(no.20,2009,pp.47-50).これは小金井公園内の江戸東京たてもの園に移築保存された小寺家住宅とともに同園に寄贈された,一つのちゃぶ台のみをめぐる論文です.ちゃぶ台を構成している木材【素材】,木目に現れた接着剤のパターン(ある時期まで,そのちゃぶ台の表面にシートが貼られていたことを示します)【物に刻み込まれた経緯】,ちゃぶ台は角形が一般的ですがそのちゃぶ台は円形で【形状】,しかし脚の構成上囲む人が足を入れられる場所と入れられない場所があることから【構成】,ちゃぶ台を基準にして囲む人の位置が限定されていただろうこと,ちゃぶ台が折りたたみ可能【機構】で,つねに食事室に置かれていたわけではないどころか,食事を行う場所自体流動的だった可能性があること【そのものの置かれた社会的文脈】,ちゃぶ台が存在した店舗付住宅に住んでいた家族と使用人の生活上,ちゃぶ台を血の繋がった家族のみで囲むというイメージで喧伝された理念「一家団欒」は,現実にはあり得なかったこと【そのものの置かれた歴史的文脈】などが盛り込まれています.いわば一つの物に関してその履歴書を遡及的に作り上げるような作業です.
 これと同じ作業を,どれか一つの物(身の回りにある物でも,展示品でもかまいませんが,レポート作成者がそのものを実際に手にとって観察しないとまともなレポートは書けないでしょう)に関して行ってみて下さい.

2.本講義で扱わなかった素材について,その使われ方を歴史的に記述せよ.その際,どのような需要とどのような先行的な開発がその素材の発展を後押ししたのか,その需要はどのような集合的意志,あるいは社会的変動を背景にしたものか,またその素材はどのような形状で使われるべきか,開発によってそれまでの形状がどのように変化した(しうる)のかなどに注意して調べること.
 たとえばサランラップとクレラップその他ラップ製品との違いは何で(たまたま昨夜酒場で,旭化成でもない人にサランラップの優位性を散々力説されたもので……),どのような開発がサランラップという製品に結び付いたでしょうか.たとえば現在コンクリートの研究で進められている方向性は,どういう需要に対応したものでしょうか.そのときコンクリートの建物はどのような形状に変化する可能性があるでしょうか.──「素材」という言葉を広く解釈してかまわないので,各自各々の素材に着目して調べてみて下さい.
 ただし素材の開発の背景などを記述する際に,「ニーズの多様化」やそれに類した文言は極力使わないよう注意して下さい.この言葉は製品に対してもレポート記述に関しても核心的な狙いを拡散してしまい,具体的な意味においてであれ抽象的な意味においてであれ,かたちを見えなくする言葉です.製品ニーズが多様化するにしても,従来中心的と考えられてきたニーズではない新たなニーズが付け加わったことで狙いが増えたということでしかなく,従来のニーズと新奇のニーズの双方を把握せずに抽象的に「多様なニーズに応える」ことはできません.レポートにおいても「ニーズの多様化」という言葉では具体的な事柄を何も指し示すことができません.具体的なニーズを列挙した後にそれらをまとめて「多様化」として括る分にはかまいません.

以上
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by d_ama | 2013-07-02 17:30 | institutions