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2008年 02月 28日
前の謎
国会議事堂.都庁.板橋区役所.明治神宮.外苑.水天宮.新宿御苑.東大.駒場東大.明大.成城学園.府中競馬正門.大井競馬場.読売ランド.三越.

もちろん,東京で「○○前」という駅名になっているものだ(たぶんまだあるだろう).しかしこういう名前のつけ方は不思議だ.国立競技場,築地市場,代々木公園,後楽園,芦花公園,多磨霊園,お台場海浜公園,学芸大学,流通センター,羽田空港(これも,もっとあるだろう)には「前」がつかないし,それで問題はない.

だれも成田空港駅と成田空港を混同する人はいないし,それは公園や大学でも同じだ(もっとも,都立大学は都立大学駅付近にはもうないし,その大学自体石原氏に潰されてしまったのだが).「国会議事堂は国会議事堂前駅前にある」という日本語に不自然さを感じなかったのだろうか? 駅名を一字増やすことのコストを考えなかったのだろうか? 前を付ける事で特定の団体に有利にしないという配慮は,駒沢大学とか船の科学館とかの駅名で覆されているし,特定の団体を有利にするという危惧は,三越前という駅名の存在により,成り立たない.

もちろん駅ごとの事情を言えばきりがない.地域住民,特に商店会の“申し入れ”もあるのだろう.三越前は,もちろん三越が建設費用の一部を負担したから付けられた名前だから,「早稲田実業学校小室哲哉記念ホール」「堀場国際会議」に近い.「コスト」概念を広く考えれば「クロイツフェルト・ヤコブ病」や「ピタゴラスの定理」にも近いか(「キュリウム」や「東京大学小柴ホール」になると,もはや名前の元となった本人は直接コストを割いてはいない;また最近の中学教科書が「三平方の定理」と呼ぶのは,人名由来の定理よりも内容を示す命名が好まれるからかも).

しかし,「前」とか「記念」とかの語は,なくても十分機能を果たすのにくっついているせいで,名前全体が冗長に見えてしまう.冗長な名前を背負うのは,気詰まりじゃないだろうか.

新高円寺,西日暮里,東銀座などの駅名は,例えば「馬橋」「道灌山」「三原橋」にならなかったのだろうか.東銀座が「歌舞伎座前」になったら笑えるし,西日暮里がもう少しで「開成前」になるところだったという話を聞いたこともある.

銀座があって銀座一丁目とか,新宿があって新宿三丁目(伊勢丹前?)とかは,まだ仕方ないかも知れない.けれど青山がないのに青山一丁目とか,本郷がないのに本郷三丁目とかは許せない.携帯で入力するのが不便だ(都電はいずれ廃止する計画で地下鉄を造っていたのだ).もっとも同じ渋谷とはとても思えない渋谷駅,浅草駅と繋がっていない浅草駅などは,名前を変えるべきだったのでは.

溜池山王,清澄白河,白金高輪,水沢江刺は,二つの利害が衝突したんだろうなあ,とその名を付けられた駅に哀れみを感じる.「元町・中華街」の「・」は,元町にある中華街と思われたくなかったんだろう(川を挟んで別の街だ).同じ理由で「東京三菱UFJ銀行」「厚生労働省」.極端な例は「中央大学・明星大学」駅.大阪大学と大阪外国語大学が統合して「大阪大阪外国語大学」にならなくてよかった.

「岐阜羽島」は岐阜市と接しないが,岐阜県の羽島市と言わないと全国レヴェルには通じなかったからだろう(岐阜市に向かう人は岐阜羽島で降りず,名古屋で降りるべき).「大鰐弘前IC」はぎりぎり弘前市に接するが,そもそも東北自動車道全体に「東北縦貫自動車道弘前線」という役所用語が付されているのも不思議だ(弘前市をかすっているだけなのに).

とはいえ事情を知っていれば,「東京大学美学芸術学研究室」「同志社大学美学および芸術学専攻」「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」「ボスニア・ヘルツェゴビナ」には寛容になれる.「アンチグア・バーブーダ」など本当にそれしか命名がありえなかっただろうと思う.けれどそれは内部の事情を想像できるからで,名前というのは本来外部に向けられるものではないだろうか.外部に向けた看板を自らが内面化することに,教育/馴致/親しみが成り立つのではないだろうか(教育に関して言えば,もちろんそれだけではないが).

「牛込神楽坂」など僭称でしかないし,「牛込柳町」駅の真上にある交差点が「市谷柳町」なのは混乱するし,「上野御徒町」「上野広小路」「新御徒町」「仲御徒町」あたりは地元の人でも解っているのか心配だ(僕も今地図を開いた).高速道路が「三条燕IC」で新幹線が「燕三条駅」など,ほとんど言葉遊びだろう.

ネーミングには割り切りが必要である,という話でした.

by d_ama | 2008-02-28 11:13 | miscellaneous

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